読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

法務の覚書

弁護士登録7年目。法律にかかわる問題・事件・本のことなど、思いつくままに

威力業務妨害罪とクレーマー・嫌がらせ行為の対処

 先月、神戸市垂水区のスーパーマーケットに十数匹のゴキブリを放したとして神戸市の小学校の事務員の女が威力業務妨害の疑いで警察に逮捕されました。
先月26日の夜、神戸市垂水区多聞町にあるスーパーマーケットで十数匹のゴキブリが食品売り場近くにいるのを店員が見つけ、悪質ないたずらのおそれもあるとして翌日、警察に相談しました。
警察によりますと、当時の店内を撮影していた防犯カメラの映像には、食品売り場付近で袋を置くような不審なしぐさをする女の姿が映っていたということです。
このため、スーパーの店員が警戒していたところ、4日夜、防犯カメラの映像に映っていた女によく似た人物が店内にいるのが見つかり、通報を受けた警察が任意同行を求め、威力業務妨害の疑いで逮捕しました。
逮捕されたのは、神戸市の職員で小学校の事務員の永瀬俊子容疑者(56)で、警察によりますと、調べに対して、「ゴキブリは自宅で捕まえ生かすために放した。業務を妨害するつもりはなかった」などと供述しているということです。
警察は詳しいいきさつを調べることにしています。

(2016年7月5日NHK)

 事業所や官公所などで、不満を晴らしたり、不当な要求を受け入れさせたりするために、暴行・脅迫に至らない程度の「嫌がらせ行為」がなされることがあります。

そうした実力による嫌がらせを行う人物に対しては、多くの場合理性的な説得は功を奏しないので、対抗するには警察に頼らざるを得ないこともあります。

 

他方、威力業務妨害罪における「威力」とは人の意思を制圧するような勢力をいい(最判昭32.2.21)、暴行・脅迫に至らないものであっても、社会的・経済的地位や権勢を利用した威迫、多衆・団体の力の誇示、騒音喧噪、物の損壊等およそ人の意思を制圧するに足りる勢力一切を含むと解されており(前田雅英ほか編「条解刑法第3版」(弘文堂)697頁)、実行行為の態様はかなり広範、多様です。

 

それだけに、「威力」による嫌がらせ行為を行う人物に対し迅速な対応をするには、あらかじめ「威力」に該当する行為について具体的な事例をもとにある程度類型的なイメージを持っておくことが有効と思われます。

そこで、以下判例に現れた威力業務妨害の行為態様をその量刑とともにいくつかみてみることとします。

 

○不快な物を利用する場合

大審院昭和7年10月10日判決

デパートが不良品を販売しており第三者から注意を受けても改善しないなどと聞きこんで反感を募らせていた被告人が、デパートの食堂配膳部に縞蛇二十匹をまき散らし、満員の食堂を大混乱に陥れた行為について、威力を用い会社の業務を妨害したものとした。

(懲役3月)

 

最高裁平成4年11月27日決定 

消防本部消防長室にある同人のロッカー内の作業服ポケットに犬の糞を、事務机中央引き出し内にマーキュロム液*1で赤く染めた猫の死骸をそれぞれ入れておき、翌朝執務のため消防長室に入った消防長をして、当該犬の糞及び猫の死骸を順次発見させ、畏怖させるに足りる状態においた一連の行為は、被害者の行為を利用する形態でその意思を制圧するような勢力を用いたものということができるから、刑法二百三十四条にいう「威力ヲ用ヒ」た場合に当たると解するのが相当とした。

(被告人2名、それぞれ懲役10月・8月、執行猶予3年)

 

○大声、怒号

大審院昭和10年9月23日判決

被告人が共犯者2名とともに、デパート地階の食堂において前日注文した食事が見本品と違うと詰問するため幹部を呼び出そうとして、応接室に来てほしい旨の従業員の要請に応ずることなく、このデパートは詐欺行為をしていると怒号するなどし、臨場した警察官に対しても取り調べを受ける必要はないなどと大声で述べるなどして、多数の客がいる食堂を一時騒然とさせたことについて、威力を用いて業務を妨害したものとした。

(被告人2名、それぞれ懲役8月・5月)

 

阪高裁昭和58年2月1日判決

大学の教室において講師がマイクを使用して講義を開始した直後から、被告人らのグループが前列座席や教壇付近から「質問。」「先週はなぜ休講したか。その理由をいえ。」などと激しい口調で発言をはじめ、「大学とは何か。」「授業とは何か。」などと質問を続け、講師による静止や一般学生の苦情などにもかかわらず声高な発言を続け、一般学生には講義がよく聞き取れない状態となり、講師は予定していた3時を待たず2時40分に講義を打ち切ったなどの状況で、被告人らの行為は威力を用いて講師の授業を妨害したとして、威力業務妨害罪の成立を認めた。

(量刑不明)

 

最高裁平成12年2月17日決定

 ①平成4年11月10日、町長選挙の立候補届け出受理業務を行っていた町役場2階会議室において、立候補届出をするとして同所に赴き、選挙長から身元確認のため戸籍抄本、供託証明書等の確認を求められたのに対しその根拠を問うなどして当該確認作業を断念させ、受付順位決定のためのくじの方法の変更を執拗に要求し、方法が決定されても佇立したままくじを引こうとせず、度重なる要請を受けてくじを引こうとした際「気を付け」と怒号するなどし、よって受付順位決定までに約3時間30分の時間を費やすことを余儀なくさせて手続きを遅延させたうえ、突如17名の立候補届出をする旨申し向けてポスター掲示板の区画の増設・立候補者に交付する備品の追加調達を余儀なくさせ、さらにくじ終了後必要書類の作成をすると称して故意に記載を遅延させるなどし、よってくじ終了後受付順位第一位の立候補届け出受理まで約30時間40分の時間を費やすことを余儀なくさせ、もって偽計及び威力を用いて選挙長の立候補届出事務を妨害し

②平成5年7月4日、衆議院議員総選挙に際し、奈良県庁第一会議室において同選挙立候補届出事務を開始した際、立候補届出をすると称して、立候補届出書類に汚物が在中していることを装って職員の確認作業を困難にし、受付順位決定のためのくじを引いたのにその番号と立候補予定者名を職員に告げないなどにより受付順位決定までに約40分を費やすことを余儀なくさせて手続を遅延させ、立候補届出書類を作成すると称して故意に記載を遅延させるなどした上、職員が制限時間を設けたのに対し「誰がそんなことを決めたんや」などと怒号した上、所持していたボールペンを机上にたたきつけるなどし、候補者の立候補届出受理まで約1時間19分の時間を費やすことを余儀なくさせて手続を遅延させ、もって偽計及び威力を用いて選挙長の立候補届出受理業務を妨害したもの。

(懲役1年、執行猶予3年。ただし適用法条は刑法233条・234条の単純一罪、①②の併合罪

 

 ○物理的な妨害

阪高裁昭和26年6月9日判決

紡績工場のモーター室配電盤に設置されていたスイッチを切ってモーターを停止させ織機320台の運転を止めた行為につき威力業務妨害罪の成立を認めた。

(懲役6月・執行猶予2年)

 

東京高裁昭和45年2月19日判決

給食センター入口付近の道路上に小型四輪貨物自動車を斜めに停車させ、これに接続させて木の柵を置き、給食センター職員が進行させようとした配送車の前後に石、ドラム缶を置き、あるいは周囲に蝟集して配送車の通行を妨害したことについて、威力業務妨害罪の成立を認めた。

(懲役4月・執行猶予1年)

 

最高裁昭和59年3月23日決定

弁護士である被害者の事務所において、弁護士が携行する訟廷日誌、訴訟記録等が入った鞄を奪い取って自宅に二か月隠匿して、被害者の弁護士活動を困難にさせた行為について、弁護士である被害者にとって重要な書類が在中する鞄を奪い取って隠匿する行為は、被害者の意思を制圧するに足りる勢力を用いるものといいうるから「威力ヲ用ヒ」に当たるものとした。

(罰金10万円)

 

○インターネット掲示板への書き込み

東京高裁平成20年5月19日判決

インターネット掲示板2ちゃんねる)のスレッド上に、文化センターで開催予定の講座に関し「一気に片をつけるのには 文化センターを血で染め上げることです」「教室に灯油をぶちまき 火をつければ あっさり終了」などと書き込み、これらの書き込みが脅迫に当たるなどとした他の書き込みに対し「証人請求でババア呼びますから 文化センター血の海になりますよ~」「つでに(ママ)通報も忘れるな これは犯罪予告だ!」などと書き込んだ行為について、連絡を受けた講座の主催者らの自由意思を制圧するに足りる勢力を用いたというに十分なものとし、脅迫罪とともに威力業務妨害罪の成立を認めた。

(量刑不明)

 

 

*1:いわゆる「赤チン」

認可地縁団体への移転登記(地方自治法260条の38、39)

とてもニッチなテーマですが、一部できわめて必要性が高い制度です。

 

「自治会」「町内会」は通常任意団体(権利能力なき社団)です。

したがって、自治会や町内会が例えば自前の集会所などの土地建物を(実質的に)所有していても、任意団体のままでは団体名義で登記をすることができません。

この場合に活用されるのが、認可地縁団体の制度です(地方自治法260条の2以下)。

自治会などの団体が市町村長に対し、所定の申請(地方自治法260条の2第2項、地方自治法施行規則18条)を行い、認可されると、団体はその目的の範囲内において権利能力が付与され(一種の法人となって)、その名義で不動産の保存登記や所有権移転登記をすることもできるようになります。

 

このようにして団体名義で登記ができるようになったとしても、それだけで問題は解決しないことがあります。

従来、団体名義で登記をすることができなかったために、団体が実質的に所有する不動産については、やむを得ず構成員全員の共有名義・代表者の単独名義・「村持」などという形で便宜的に登記するほかない状態でした。

そして、このような登記がされた土地については相続登記がされない(できない?)まま長期間が経過したものが多く、いざ認可地縁団体の名義で登記をしようとしても、共同申請(不動産登記法60条)をするべき登記義務者(この場合、登記名義人の相続人)が非常に多数になってしまうとか、そもそも誰が登記義務者になるのか特定することすらできないために、団体への移転登記をすることができず、といって団体自身は表題部所有者やその相続人などではないので、団体名義で保存登記をすることができるわけでもなく(不動産登記法74条)、手続は隘路に陥り、結局登記できずに放置されることになります。

 http://www.soumu.go.jp/main_content/000180472.pdf

 

この問題への一つの処方箋となるのが、平成26年の地方自治法改正により設けられた所有不動産の登記の特例です(地方自治法260条の38、39)。

団体の申請を受けて市町村長が一定の期間公告し、当該公告期間内に異議を述べる登記名義人やその相続人、所有権を疎明する者(「登記関係者等」)が現れなければ、所有権の保存・移転登記をすることに登記関係者の承諾があったものとみなされ、市町村長は公告を行ったこと及び公告期間内に登記関係者等が異議を述べなかったことを証する情報を認可地縁団体に提供します(地方自治法260条の38第2項~第4項)。

認可地縁団体が申請情報(不動産登記法18条)とともに、市町村長から提供された情報を登記所に提供すると、不動産保存登記又は所有権移転登記を申請することができるようになります(地方自治法260条の39第1項、第2項)。

 

 この制度は、いわば当該不動産の「本来の」所有者の関与なくして団体名義で登記をすることを可能にするという、登記制度の大きな特例となるものなので、団体の申請が認められるための要件はかなり詳細で厳しいものです。

すなわち

①認可地縁団体が当該不動産を所有していること。

判例では、入会財産は入会権者全員の共同所有に属するが、入会権者には持分権がないとされ(最判昭57.7.1民集36巻6号891頁)、入会権者による持分権の処分、入会団体からの離脱による払い戻し請求、入会財産の分割請求はありえないといわれます(佐久間毅「民法の基礎2 物権」(有斐閣)193頁)。

したがって、例えば当該土地の共有者として登記されている者が、持分を自由に第三者に譲渡しているといった事案では、要件充足に疑義が生じることがありえます。

②当該認可地縁団体が当該不動産を十年以上所有の意思をもって平穏かつ公然と占有していること。

③表題部所有者または所有権の登記名義人の全てが当該認可地縁団体の構成員又はかつて構成員であった者であること。

→認可地縁団体の構成員は、住民にとって客観的に明らかなものとして規約に定められた「区域」内の住民であることが必要であり(地方自治法260条の2第2項第2号、第3項3号)、一部であっても「区域」外の者が共有者等として登記名義人になっているようなケースは、本条の要件を満たさないと解されます。

④当該不動産の表題部所有者若しくは所有権の登記名義人又はこれらの相続人(「登記関係者」)の全部又は一部の所在が知れないこと。

→例え一人であっても所在不明者がいれば、当該要件を満たすと解されます。

 

以上の四要件について団体は、市町村長に対し疎明資料を提出しなければなりません(地方自治法260条の38第1項各号)。

 

さらには、⑤公告期間内に「登記関係者等」が異議を述べた場合は、市町村長は団体に対し異議が述べられた旨及び異議の内容を通知するものとされます(地方自治法260条の38第5項)。

登記関係者の異議があると、登記に必要となる「公告期間内に登記関係者等が異議を述べなかった」旨の情報(同条第4項)は当然ながら団体に提供されないので、団体は本特例による登記申請をすることはできません(260条の39)。

ここで重要なのは、市町村長は、異議を述べた者が「登記関係者等」であるかどうかを審査することはできても、登記関係者等の異議の内容の正当性を審査する制度にはなっていないことです。

したがって、例えば、登記事項証明書、住民票の写しなど(地方自治法施行規則22条の3第2項)によって登記名義人の相続人であることを疎明した者が現れて、所定の様式で異議を述べられてしまうと、その時点で団体は登記申請を断念せざるを得ないという、団体にとってはひどく脆弱さを伴った制度だということです。

既存の所有権・登記制度との整合性を持たせるために慎重に制度設計がなされていることがうかがわれるところですが、制度を利用しようとする側にとっては歯がゆく感じられる部分なのではないでしょうか。

 

(まとめ)

先に述べたような登記義務者が不明である(要件④)などの不動産について(=特例の必要性)、団体が所有しており(①)、かつ取得時効(民法162条2項)の占有の要件も満たしていて(②)、その上登記関係者がすべて当該団体の構成員又は元構成員である(すなわち、団体名義の登記を認めても団体外の者の権利を侵害するおそれがない)場合(③、⑤)には、従来の所有権制度・登記制度との整合性にかんがみて特例を認めて差し支えなく、簡易的な方式による登記申請を認めましょう、という制度だといえます。

 

 

 

自治会、町内会等法人化の手引 第2次改訂版

自治会、町内会等法人化の手引 第2次改訂版

 

 

 

 

 

 

 

川島武宜「日本人の法意識」

 

日本人の法意識 (岩波新書 青版A-43)

日本人の法意識 (岩波新書 青版A-43)

 

学生時代以来の再読。

実務家として法律を運用する立場から一般の人々の法にまつわる認識にふれてから読むと、腑に落ちる部分が多く感じられました。

 

契約は成立するかしないかの何れかーいわゆる「すべてか、無か」all or nothingー の二者択一であって、その中間はないのが原則である。(90頁)

筆者はこの原則を挙げつつ、戦中の農村において口頭での約束がいとも簡単に破られたばかりか、口約束をたてに非難する者こそ非常識であると受け止められた例を出して、次のように述べています。

要するに、ここでは、民法が規定しているような意味で契約が「成立している」のか、いないのか、を問うこと自身が無意味なのである。 A夫人の約束も、全くの無契約の状態なのではなく、やはり一種の約束なのであり、ただそれほど拘束力を感じない、というだけのことである。(92~93頁)

あるいは、「成立」したとされた契約に関しては、次のように述べられています。

…わが国の工事請負契約においては、あたかも伝来的な小作におけると同様に、事あるたびに契約関係について業者から陳情・嘆願・懇願し、官庁側も契約上の法律関係を根拠としてこれを拒否しないで交渉に応じ、多かれ少なかれ妥協するのを常とし、また時には業者に「泣いてくれ」(損失を甘受せよ)と言い、業者も「泣きましょう」(損失を甘受しましょう)とこたえて、問題を解決するという慣行があり、…(106頁)

 つまり、日本の一般的な社会の認識としては、契約が成立したかしなかったかもあいまいなら、成立した契約に拘束力があるかどうかもあいまいなのが普通だった、なんとなれば契約をそのようにとらえることが「常識」ないし「良識」だということなのでしょう。

 

現代でも契約書のひな形等に「誠実協議条項」(契約の解釈に疑義があり又は契約に定めのない事項があるときは当事者双方が誠意をもって協議し解決する)が置かれているのをしばしば目にしますし、契約書を取り交わしたことについていとも簡単に反故にするかのような(それこそ、契約書など「一応のもの」にしかすぎないかのような)言動をとる当事者(暴力団などとのかかわりのない、一般の者であっても)は現代でもさほど珍しくないと思われます。

法律家の視点からは、いかにも非常識に見える誠実協議条項やその種の当事者の振る舞いも、単なる無知によるというだけでなく、日本の社会に深く根差している法に対する意識(あるいは意識の不存在?)が影響しているのだとすると、軽く扱えないものがあるように思われます。

行政不服審査法の改正

改正行政不服審査法が今年の4月1日付で施行されています。

改正のポイントはいくつかありますが、手続の公正さ・透明性の向上という観点からの改正点は次のような部分です。

・審査手続を主催するのは、審査庁の職員で原処分に関与していない者から指名される「審理員」(新法9条1項、2項)

→従来は原処分に関与した職員が審査手続から排除されていませんでした(というより、 審理の主催者という観念自体がなく、一部の証拠調べや審尋を審査庁の職員に行わせることができる旨の規定があっただけ)

・処分庁に対し弁明書(処分の内容及び理由等が記載されたもの)の作成を義務付け、かつ審理員は提出された弁明書を審査請求人に送付しなければならない(新法29条2項、3項、5項)

→従来は弁明書の作成は任意であり(旧法22条1項において、審査庁は処分庁に弁明書の提出を求めることが「できる」と規定されていた)、審査請求人が処分庁の主張、立証内容を知る機会がないまま裁決がなされることがあり得ましたが、改正法では最低限そうした機会が確保されることになりました(従来はこんな当たり前と思えるようなことすら制度化されていなかったのですね)

・証拠書類等(処分庁が提出したもの以外のものも含む)の閲覧に加え、写しや電磁的記録のプリントアウトの交付の請求が認められる

→旧法では閲覧請求権のみで、処分庁以外の所持人から提出された物件は閲覧対象に含まれていませんでした(旧法33条2項)。しかも、簡易な手続きである異議申立ての場合はそれすら認められていませんでした(旧法48条で閲覧請求権に関する33条が準用条文から除かれていた)。

・審査請求人が口頭意見陳述を申し立てた場合、審理員は原則として意見を述べる機会を与えなければならない(新法31条1項)。しかも、審理員は期日及び場所を指定し、審理関係人全員を招集しなければならない上(新法31条2項)、申立人は審理員の許可を得て審査請求にかかる事件に関して処分庁等に質問をする権利が認められた(新法31条5項)。

→旧法でも審査請求人の申立てがあったときは、審査庁は申立人に口頭で意見を述べる機会を与えなければならないとされていたものの(旧法25条1項ただし書き)、処分庁の職員が期日に立ち会う義務はなく、審査請求人から処分庁に質問をすることも想定されていませんでした。

・審理員は、審理手続を終結したときは、審査庁がすべき裁決に関する意見書(審理員意見書)を作成しなければならず(新法42条1項)、これを作成したときは事件記録とともに審査庁に提出しなければならない(新法42条2項)。

→審査庁が作成する裁決書の原案となるもので、それを原処分に関与しない職員である審理員が作成するというところがポイントです。

行政不服審査会(第三者機関)への諮問の原則義務化(新法43条)

→旧法下においても、自治体が条例で情報公開審査会を設け、異議申立てにかかる事件について答申していた例はありましたが、新法では審査庁から独立した第三者機関に対する諮問を基本的にすべての審査請求にかかる事件について義務付けたものです。

・裁決書に記載する裁決の理由において、主文が審理員意見書又は行政不服審査会の答申書と異なる内容である場合は、異なることとなった理由の記載をしなければならない(新法50条1項4号かっこ書き)

→審理員意見書や審査会の答申書には裁決を法的に拘束する効力はありませんが、裁決書の理由中において、主文と審理員意見書等の内容が異なる理由の記載を義務付けることによって、透明性及び審理関係人に対する説明責任の確保を図ったものです(宇賀克也「行政不服審査法の逐条解説」(有斐閣)215頁)。

 

果たしてこれらの改正によって透明性の向上がどれだけ図れるのかについては、次のような点がポイントになるのではないかと思われます。

・審理員が実質的に審査庁から独立した立場で審理手続を主宰し、審理員意見書を作成することができるか。

→組織人である公務員にとって、組織から独立した立場で意見を述べること(ましてや、組織の意思決定にたった一人で異を唱えること)はそう簡単なことではないと思われます。審理員になった職員の身分保障を制度化するとか、外部の弁護士を非常勤職員として審理員にするなどしないと、審理員制度は想定したような機能を果たさないのではないでしょうか。

・審査請求人が処分庁側の立証内容を適時に知り、反論の機会を得ることができるか。

民事訴訟であれば当事者はそもそも書証の申出の際に相手方に送付する写しや証拠説明書を提出しなければなりませんが(民事訴訟規則137条1項)、審査請求手続において審査請求人は積極的に証拠書類等の閲覧請求権を行使しなければ、処分庁等が提出した証拠や審理員の提出命令によって第三者から提出された証拠の有無や内容を知る機会が制度上保障されていません。審査請求は法律の素人である一般人が代理人を付けずに行うことも想定されているため、審理員が閲覧請求権の教示を積極的に行うことや、民事訴訟に準じて証拠書類の写しを審査請求人に送付するような運用ができるかがポイントになるでしょう。

 

 

若手法律家のための法律相談入門

法律相談のマニュアル。マンガはおちゃらけていますが内容はとても真面目で実践的。若手法律家のためのと銘打ってあるとおり、ある程度の経験を積んだ弁護士なら特に目新しい内容ではないものの、経験を積んでいるだけにかえっておろそかになっていることもあるかもしれない。たまに読み返してセルフチェックをするような使い方もありそう。

 

若手法律家のための法律相談入門

若手法律家のための法律相談入門