法務の覚書

弁護士登録7年目。法律にかかわる問題・事件・本のことなど、思いつくままに

行政不服審査法の改正

改正行政不服審査法が今年の4月1日付で施行されています。

改正のポイントはいくつかありますが、手続の公正さ・透明性の向上という観点からの改正点は次のような部分です。

・審査手続を主催するのは、審査庁の職員で原処分に関与していない者から指名される「審理員」(新法9条1項、2項)

→従来は原処分に関与した職員が審査手続から排除されていませんでした(というより、 審理の主催者という観念自体がなく、一部の証拠調べや審尋を審査庁の職員に行わせることができる旨の規定があっただけ)

・処分庁に対し弁明書(処分の内容及び理由等が記載されたもの)の作成を義務付け、かつ審理員は提出された弁明書を審査請求人に送付しなければならない(新法29条2項、3項、5項)

→従来は弁明書の作成は任意であり(旧法22条1項において、審査庁は処分庁に弁明書の提出を求めることが「できる」と規定されていた)、審査請求人が処分庁の主張、立証内容を知る機会がないまま裁決がなされることがあり得ましたが、改正法では最低限そうした機会が確保されることになりました(従来はこんな当たり前と思えるようなことすら制度化されていなかったのですね)

・証拠書類等(処分庁が提出したもの以外のものも含む)の閲覧に加え、写しや電磁的記録のプリントアウトの交付の請求が認められる

→旧法では閲覧請求権のみで、処分庁以外の所持人から提出された物件は閲覧対象に含まれていませんでした(旧法33条2項)。しかも、簡易な手続きである異議申立ての場合はそれすら認められていませんでした(旧法48条で閲覧請求権に関する33条が準用条文から除かれていた)。

・審査請求人が口頭意見陳述を申し立てた場合、審理員は原則として意見を述べる機会を与えなければならない(新法31条1項)。しかも、審理員は期日及び場所を指定し、審理関係人全員を招集しなければならない上(新法31条2項)、申立人は審理員の許可を得て審査請求にかかる事件に関して処分庁等に質問をする権利が認められた(新法31条5項)。

→旧法でも審査請求人の申立てがあったときは、審査庁は申立人に口頭で意見を述べる機会を与えなければならないとされていたものの(旧法25条1項ただし書き)、処分庁の職員が期日に立ち会う義務はなく、審査請求人から処分庁に質問をすることも想定されていませんでした。

・審理員は、審理手続を終結したときは、審査庁がすべき裁決に関する意見書(審理員意見書)を作成しなければならず(新法42条1項)、これを作成したときは事件記録とともに審査庁に提出しなければならない(新法42条2項)。

→審査庁が作成する裁決書の原案となるもので、それを原処分に関与しない職員である審理員が作成するというところがポイントです。

行政不服審査会(第三者機関)への諮問の原則義務化(新法43条)

→旧法下においても、自治体が条例で情報公開審査会を設け、異議申立てにかかる事件について答申していた例はありましたが、新法では審査庁から独立した第三者機関に対する諮問を基本的にすべての審査請求にかかる事件について義務付けたものです。

・裁決書に記載する裁決の理由において、主文が審理員意見書又は行政不服審査会の答申書と異なる内容である場合は、異なることとなった理由の記載をしなければならない(新法50条1項4号かっこ書き)

→審理員意見書や審査会の答申書には裁決を法的に拘束する効力はありませんが、裁決書の理由中において、主文と審理員意見書等の内容が異なる理由の記載を義務付けることによって、透明性及び審理関係人に対する説明責任の確保を図ったものです(宇賀克也「行政不服審査法の逐条解説」(有斐閣)215頁)。

 

果たしてこれらの改正によって透明性の向上がどれだけ図れるのかについては、次のような点がポイントになるのではないかと思われます。

・審理員が実質的に審査庁から独立した立場で審理手続を主宰し、審理員意見書を作成することができるか。

→組織人である公務員にとって、組織から独立した立場で意見を述べること(ましてや、組織の意思決定にたった一人で異を唱えること)はそう簡単なことではないと思われます。審理員になった職員の身分保障を制度化するとか、外部の弁護士を非常勤職員として審理員にするなどしないと、審理員制度は想定したような機能を果たさないのではないでしょうか。

・審査請求人が処分庁側の立証内容を適時に知り、反論の機会を得ることができるか。

民事訴訟であれば当事者はそもそも書証の申出の際に相手方に送付する写しや証拠説明書を提出しなければなりませんが(民事訴訟規則137条1項)、審査請求手続において審査請求人は積極的に証拠書類等の閲覧請求権を行使しなければ、処分庁等が提出した証拠や審理員の提出命令によって第三者から提出された証拠の有無や内容を知る機会が制度上保障されていません。審査請求は法律の素人である一般人が代理人を付けずに行うことも想定されているため、審理員が閲覧請求権の教示を積極的に行うことや、民事訴訟に準じて証拠書類の写しを審査請求人に送付するような運用ができるかがポイントになるでしょう。