読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

法務の覚書

弁護士登録7年目。法律にかかわる問題・事件・本のことなど、思いつくままに

認可地縁団体への移転登記(地方自治法260条の38、39)

とてもニッチなテーマですが、一部できわめて必要性が高い制度です。

 

「自治会」「町内会」は通常任意団体(権利能力なき社団)です。

したがって、自治会や町内会が例えば自前の集会所などの土地建物を(実質的に)所有していても、任意団体のままでは団体名義で登記をすることができません。

この場合に活用されるのが、認可地縁団体の制度です(地方自治法260条の2以下)。

自治会などの団体が市町村長に対し、所定の申請(地方自治法260条の2第2項、地方自治法施行規則18条)を行い、認可されると、団体はその目的の範囲内において権利能力が付与され(一種の法人となって)、その名義で不動産の保存登記や所有権移転登記をすることもできるようになります。

 

このようにして団体名義で登記ができるようになったとしても、それだけで問題は解決しないことがあります。

従来、団体名義で登記をすることができなかったために、団体が実質的に所有する不動産については、やむを得ず構成員全員の共有名義・代表者の単独名義・「村持」などという形で便宜的に登記するほかない状態でした。

そして、このような登記がされた土地については相続登記がされない(できない?)まま長期間が経過したものが多く、いざ認可地縁団体の名義で登記をしようとしても、共同申請(不動産登記法60条)をするべき登記義務者(この場合、登記名義人の相続人)が非常に多数になってしまうとか、そもそも誰が登記義務者になるのか特定することすらできないために、団体への移転登記をすることができず、といって団体自身は表題部所有者やその相続人などではないので、団体名義で保存登記をすることができるわけでもなく(不動産登記法74条)、手続は隘路に陥り、結局登記できずに放置されることになります。

 http://www.soumu.go.jp/main_content/000180472.pdf

 

この問題への一つの処方箋となるのが、平成26年の地方自治法改正により設けられた所有不動産の登記の特例です(地方自治法260条の38、39)。

団体の申請を受けて市町村長が一定の期間公告し、当該公告期間内に異議を述べる登記名義人やその相続人、所有権を疎明する者(「登記関係者等」)が現れなければ、所有権の保存・移転登記をすることに登記関係者の承諾があったものとみなされ、市町村長は公告を行ったこと及び公告期間内に登記関係者等が異議を述べなかったことを証する情報を認可地縁団体に提供します(地方自治法260条の38第2項~第4項)。

認可地縁団体が申請情報(不動産登記法18条)とともに、市町村長から提供された情報を登記所に提供すると、不動産保存登記又は所有権移転登記を申請することができるようになります(地方自治法260条の39第1項、第2項)。

 

 この制度は、いわば当該不動産の「本来の」所有者の関与なくして団体名義で登記をすることを可能にするという、登記制度の大きな特例となるものなので、団体の申請が認められるための要件はかなり詳細で厳しいものです。

すなわち

①認可地縁団体が当該不動産を所有していること。

判例では、入会財産は入会権者全員の共同所有に属するが、入会権者には持分権がないとされ(最判昭57.7.1民集36巻6号891頁)、入会権者による持分権の処分、入会団体からの離脱による払い戻し請求、入会財産の分割請求はありえないといわれます(佐久間毅「民法の基礎2 物権」(有斐閣)193頁)。

したがって、例えば当該土地の共有者として登記されている者が、持分を自由に第三者に譲渡しているといった事案では、要件充足に疑義が生じることがありえます。

②当該認可地縁団体が当該不動産を十年以上所有の意思をもって平穏かつ公然と占有していること。

③表題部所有者または所有権の登記名義人の全てが当該認可地縁団体の構成員又はかつて構成員であった者であること。

→認可地縁団体の構成員は、住民にとって客観的に明らかなものとして規約に定められた「区域」内の住民であることが必要であり(地方自治法260条の2第2項第2号、第3項3号)、一部であっても「区域」外の者が共有者等として登記名義人になっているようなケースは、本条の要件を満たさないと解されます。

④当該不動産の表題部所有者若しくは所有権の登記名義人又はこれらの相続人(「登記関係者」)の全部又は一部の所在が知れないこと。

→例え一人であっても所在不明者がいれば、当該要件を満たすと解されます。

 

以上の四要件について団体は、市町村長に対し疎明資料を提出しなければなりません(地方自治法260条の38第1項各号)。

 

さらには、⑤公告期間内に「登記関係者等」が異議を述べた場合は、市町村長は団体に対し異議が述べられた旨及び異議の内容を通知するものとされます(地方自治法260条の38第5項)。

登記関係者の異議があると、登記に必要となる「公告期間内に登記関係者等が異議を述べなかった」旨の情報(同条第4項)は当然ながら団体に提供されないので、団体は本特例による登記申請をすることはできません(260条の39)。

ここで重要なのは、市町村長は、異議を述べた者が「登記関係者等」であるかどうかを審査することはできても、登記関係者等の異議の内容の正当性を審査する制度にはなっていないことです。

したがって、例えば、登記事項証明書、住民票の写しなど(地方自治法施行規則22条の3第2項)によって登記名義人の相続人であることを疎明した者が現れて、所定の様式で異議を述べられてしまうと、その時点で団体は登記申請を断念せざるを得ないという、団体にとってはひどく脆弱さを伴った制度だということです。

既存の所有権・登記制度との整合性を持たせるために慎重に制度設計がなされていることがうかがわれるところですが、制度を利用しようとする側にとっては歯がゆく感じられる部分なのではないでしょうか。

 

(まとめ)

先に述べたような登記義務者が不明である(要件④)などの不動産について(=特例の必要性)、団体が所有しており(①)、かつ取得時効(民法162条2項)の占有の要件も満たしていて(②)、その上登記関係者がすべて当該団体の構成員又は元構成員である(すなわち、団体名義の登記を認めても団体外の者の権利を侵害するおそれがない)場合(③、⑤)には、従来の所有権制度・登記制度との整合性にかんがみて特例を認めて差し支えなく、簡易的な方式による登記申請を認めましょう、という制度だといえます。

 

 

 

自治会、町内会等法人化の手引 第2次改訂版

自治会、町内会等法人化の手引 第2次改訂版